がけぷっち世界

ここはくまのおかしな世界です。

ある葬儀の思い出

20年以上前の話。

10歳くらい年上のいとこ(マー君(仮))が、重い障害を持っていて、生まれてからずっと苦しんでいたが、30歳になる前に亡くなってしまった。

 

うちからは私が一人で葬儀に参列した。私はまだ葬儀のマナーも何も知らなかったから、緊張した。マー君の家とうちは、私が幼少のころは付き合いをしていたのだが、親同士の仲が悪くなり、親戚付き合いが疎遠になったので私を一人で行かせたのだろう。幼少のころマー君と会ったことが数回あるが、会ったといっても遊んだり話したりしたことはなかった。

 

マー君はお母さんがつきっきりでいたが、お父さんが障害のある我が子を疎ましく思っていたようだった。親戚筋にも口の悪いおばさんがいて「今は障害者年金でいい車買えて、少しは役に立ってるから飯食わせとくだな」などと言っていた。

 

葬儀場の控室で、マー君のお母さんが一人赤い目をしてハンカチを口に当てていた他の親戚・家族はせいせいしたような顔をしている。もともとガラの悪いおじさんたちはお酒が入って大声で談笑し、時々さすがにまずいと思ったのかしっと声をひそめるが、ものの1分もせずにすぐにまた大声で笑う。「親より先に逝ってくれてよかったよな」などとはっきりと言う者もいて、居たたまれなかった。
お経を上げに来たお坊さんは、お寺の跡取りの若い人だった。この前までヤンチャしていたお寺の息子で、頭は剃ってもまだヤンキーの面影があって俗気が抜けていなかった。評判の悪い息子だったが、住職は他の用事があって来れないから、息子が来たようだった。「葬式にこんなのよこしやがって、いつも世話んなってる檀家に失礼じゃないか」と言っている人もいた。
葬儀が始まって、若いお坊さんがお経を読み始めた。だんだんお経が小さくなった。小さい声でぼそぼそと、うろ覚えのようだった。次第に何を言っているのか分からなくなり、つかえて少しの間止まってしまうこともあった。
私は、若いお坊さんが泣いていることに気付いた。嗚咽を堪えながら、つっかえつっかえ、なんとかお経が終わった。そそくさとお坊さんが出て行ったあと、ざわざわとして、「ひでぇな」「これじゃ成仏できないぞ」と言う親戚もいた。
しかし私は、お経としては成立していなかったけれどマー君は間違いなく成仏できたと思った。