がけぷっち世界

ここはくまのおかしな世界です。

初ラーメン二郎


先週、初めてラーメン二郎に行った。

私はまあまあラーメン好きなのだが、二郎は独自のルールがめんどくさいし怖そうという印象があって避けているうちに、アラフィフになってしまった。
二郎独自のルールの中でも特にめんどうだと思ったものは、コールというやつだ。注文と言えばいいのにコールなどというのも気に食わなかった。
若いころ友達と二郎ごっこをしたことがある。「野菜シコシコニンニンニン」とか「マシマシカラカラニンニンニン」とか言わなきゃならない、そしてこのコールのどこかを間違えると、とんでもない量になったり、油だらけになったりするのだ。まあ、悪ふざけだ。(なぜ「にんにんにん」だったのか。あやまんJAPAN の影響か?)

二郎に行かない人生だったと思っていたのだが、先日テレビを見ていたら二郎愛を語っている人が出ていて、手持ち無沙汰だったので「テレビ見てたら二郎に興味でてきた」と何気なくツイートした。ちょいちょいの反応があり、踊り子さんまで背中を押ししてくれて、後には引けなくなった。私、スト客なので。
年齢的にも体力的にも初二郎をきめるにはそろそろ限界だろう。今行かないでいつ行くのという気持ちになり、ネットで生活圏にある二郎を探した。初めはインスパイア系にいってみては?というアドバイスもいただいたが、せっかく行くのだからこれぞ二郎という店に行きたい。
歌舞伎町店、千住大橋店、亀井戸店、松戸店、(千葉の)京成大久保店が候補に上がった。
歌舞伎町店はときどき前を通っている。ちらちらと様子をうかがいながら歩いていると「らっしゃい」と声をかけられたことがある。新しくて入りやすい雰囲気だが、ネットの評判だといまいち二郎らしさが足りないらしい(二郎らしさとは何だろうか。本店らしさということだろうか)。そもそも本格的な二郎は前を通る人に声をかけたりしない、らしいのだ。
千住大橋店と亀井戸店は二郎らしい二郎らしい。だがコロナ禍の影響か昼しか空いておらず、そのため行列が長いうえに、わてくそのタイミングと合わない。
大久保店は店員さんが気さくで初心者でも居心地がいいらしい。味噌ラーメンなど独自メニューもあるが、二郎らしさは薄いらしい。
松戸店は夜もやっているし、場所は職場から近い。店のツイッターアカウントを見たら、プロフィール欄の注意書きの羅列が「お、おぅ…」という迫力で、気の弱い私など身構えてしまう。麺の硬め柔らかめ、マシ、マシマシ、味の注文はできないと書いてある。これは潔い。さらに、初めての客は小ラーメンしか注文できないとなっていることも良い。初めての客にとっては迷わなくていい。食べていまいちだと感じても、自分がカスタマイズしたせいなのかくよくよしなくて良いのだ。そしてなにより、口コミでは三田の本店に近い味となっている。ここへ行けば二郎というものが分かるだろう。ということで、松戸店に行くことにした。まあ、なんだかんだ言っても一番の理由は職場に近くて帰りがけに寄るのに好都合からだ。

 

松戸店は正確には「松戸駅前店」だが、駅から5分ほど歩く。店のだいぶ手前でもういい匂いがしてきた。

平日夜の部開店の直後に着いた。並んでいた客が店内に吸い込まれていくところだった。私の前の二人連れで列が止まった。先に食券を買っておくスタイルなのは知っている。食券を買うためにいったん店内へ入る。店員が無言でじろりと見た。券売機には直接マジックで注意事項が殴り書きしてある。お札は千円札しか使えない。初心者は小ラーメンしか注文できないと知っていたので迷わず小ラーメンを押す。値段がいくらだったか忘れたが1000円札を入れて200円と10円玉がいくつか戻ってきた。(肝心なことを忘れ調べもしないそれが俺のStileこんな記事誰かの役に立とうなんてこれっぼっちも思っちゃいねぇyeah!)
12人くらい座れるL字型のカウンターは満席で、まだ誰にも提供されていなかった。列の短かさのわりに待つことになると思った。店の中に給水機があるが、店の前の自販機で買ったペットボトルは持ち込めることは知っていたので、フンパツして脂肪分解作用があると謳う黒ウーロン茶を買った。180円だった。なお、わたくその見たところ給水機の水の人と持ち込みの人は半々くらいで、持ち込みはわたくそ以外安くて量が多いふつうのウーロン茶だった。

プラスチックの食券と黒ウーロン茶を手にして外に出て改めて二人連れの後ろに並ぶ。
緊張してきた。不安ではあるが、前の二人の言動を参考にすれば間違いないだろう。二人は若い男女のカップルだ。男が女に喋っている。「二郎っていうのはね、元々慶応の学生向けだからコスパ最優先なんだ」「二郎って、注文のことをコールって言うんだよ。野菜マシマシ油多めとか。通はね、全部って言うんだ」「二郎って常連しか知らない裏メニューもあるから、気に入ったら通って大将と顔なじみになるといいよ」などと言っている。この男ジロリアンだ。参考になりそうだと聞き耳をたてる。
すると店員が外に出てきて前のカップルに「そちらに並んでください」と言って出入口の右側を指した。並ぶ位置を間違えていたのだ。二人は移動し、あてくそも後に続いた。彼はジロリアンではなかったらしい。さらに彼は「一万円使えますか?」と聞いた。まだ食券を買っていなかったのである。さあどうなるかと思ったが、店員は一旦店に入って千円札に崩してきた。
店内では一回転目の提供が進み、私の後ろにも列ができていた。店員が「食券見せて下さい」とか何とか言った(何と言ったかは記憶が定かではない)。麺の量について聞いたかどうか憶えていないが、前のカップルは二人とも「ふつう」と言った。わてくそ、身体は前のカップルを足したくらいのサイズなのだが、ビビリなので初めから「少なめ」と言うつもりでいた。しかしいざ聞かれると緊張からかどもってしまったうえ、魚市場の仲買人のようなばかにでかい塩辛声になってしまって、「す、す、少なめい!」となってしまった。後ろの人は「半分」と言った。一通り聞き終わった店員は中に入った。しばらくして食べ終わった客が一人、二人、と出てきた。三人くらい出て行ったが、前のカップルは入らない。私の予備知識では空いたらすみやかにその席に着くのだと思っていたが。外からは死角があってよく見えないが、店内で待っている客が数人いたのだろうか。カップルは並んで座りたいために二席続いた席が空くのを待っているのだとしたら、私が先に入った方が良いのか。判断が難しい。初回にしておそろしく難易度の高いところに並んでしまったのだ。どうしようと思っていたところ、カップルはおずおずと中に入った。私も後に続いて入った。メガネが曇った。
座るよう指示されてないのに座っていいものなのかどうかわからない。カップルは真ん中あたりの二席続きで空いたところに並んで座った。奥が空いているのでそこへ座ろうと壁際を進んだら二人食べ終わって立ち上がったのでわっちゃわっちゃしてしまい、スリムな方ならすれ違えるのだろうがわてくその身体だとすれ違えないことに気が付いて一旦券売機前まで後退し、一番奥の席についた。私、体が大きいので端の席が空いていて好都合だった。席に着くと店員が指でカウンターの上段をトントンと叩いた。え?と思っているともう一度トントンと叩いた。ここに食券を置け、という意味だと気がついて置いた。
私の席の横にトイレがあるが壊れているらしく、ドアに「使えません」とか「使用禁止」とか、殴り書きがしてある。店内は正直、殺風景である。厨房には二人、麺を茹でているのがおそらくご主人(けっこう若い)、もう一人が外に出てきた店員さんだ。厨房に小麦粉にまみれた製麺機が置いてある。店員は無言、客も無言。ラジオが流れている。
入ってきた客が一万円札をヒラヒラさせて「両替して」と言った。今日二人目だ。店員が無言で千円札に崩して渡した。不愛想だが、普通の事には応じるようだ。
上着を脱いでシャツを腕まくりして待った。いよいよこれからコールだ。なんだか緊張してきた。コールごっこはしたことがあるが、本当のコールは初めてだ。
松戸店では「マシ」や「マシマシ」はできない、と書いてあったが、それがどういうことなのかわからない。何も言わなくても野菜は乗っているはずだ。「野菜」というとさらに野菜が追加されるのだと思うが、そのことを「マシ」というのか、それとも「野菜」といって増量してもらうことは「マシ」ではないのか。私は初回だから、ニンニクだけ入れてもらいたいのだけれど。
コールについて、店内には貼り紙は無い。目の前に貼ってあるのは、食べ終わったらどんぶりを上げてカウンターをふきんで拭いて帰ること、それだけだ。カウンターの上段にはカウンターを拭くためのふきんが置いてある。それは決して手や顔をふくおしぼりではない。口を拭う紙ナプキンすらない。しかし必ず、手も口もギトギトになるので、ティッシュを持参すること必須である。つまようじもなく、カウンターには箸と胡椒のみ。レンゲもない。カウンターの下に棚があるが、あまり大きな荷物は置けない。壁にコート掛けがあったようだ。
店員がカップルに手を差し、「ニンニク入れますか」と聞いた。いよいよコールだ。男は「ニンニク野菜油で」と言った。女も「ニンニク野菜で」と言った。次にわたくそに向かって「ニンニク入れますか」と聞かれた。私は「ニンニクだけでおしゃす」と言った。「おなしゃす」ならまだいい。なぜか「おしゃす」になってしまった。

ラーメンが出てきた。ここでマスクを外す。小ラーメン少なめの注文なのだがすごいボリューム、優に他の店の倍はあるようだ。どんぶりの外側がすでにギトギトなので、下ろすときに手がギトギトになってしまった。テレビやネットでお馴みだが、盛り付けに美しさがない。普通だったら少し彩りを考えて、青ネギを散らすとか、カイワレを乗せるとかしそうだが、二郎にそんなものはいらないのであろう。ツイッターに店員やお客様の撮影禁止とあったから、自分のラーメンは取っていいのだろうと判断してスマホで写した。パシャアと音がしたが、特に注意されなかったし、撮っている客は他にもいた。
甘味を含んだ香ばしい匂いがする。まず、天地ガエシとか言って、上下ひっくり返すのが通の食べ方らしいのだが、レンゲがないし不器用なのでバッチャーンしそうでそのまま食べる。隣の客は天地ガエシしていた。
一番上に乗っているのは、モヤシとざく切りのキャベツからなる大量の野菜である。まずはこれを口に運ぶ。ザクザクしていてうまい。ブロック状の赤身肉はしっかりとした豚の味がする。次いで、半円の脂身が付いた豚肉が出てきた。これがいわゆる典型的なチャーシュウに使う部分であろう。脂身の甘味もまたうまい。そして、もう一枚(というか一かたまり)豚肉あったようだが、これは食べているうちにホロホロと崩れたようで、それが野菜や麺に絡んでいい具合になっていた。たまたまなのか、部位の違う肉が三個入っていたようだ。
麺は平たいが太さがある。初めはやや固く、顎が痛くなるかと思われたが、スープを吸うと丁度良くなった。ずっしりと重い食べ応え。少なめにしておいてよかった。スープは香ばしくうま味もたっぷりだが、底の方に行くにつれてしょっぱさが勝る。齢だし健康、とくに血圧に不安があるのでレンゲが無いということはスープは飲み干さなくてもよいものと解釈し、少々残して終わりにした。
どんぶりを上げカウンターを拭き、立ち上がる時に自然と「ごちそうさま」と言っていた。ご主人と店員が笑顔を向けて「ありがとうございます」と言った。

ラーメン二郎は店員と客の間で交わされるのは符牒のような最低限のやり取りだけで、あとは脇目もふらず無言でラーメンを口に運ぶのである。はからずともコロナ時代にふさわしいラーメン屋だといえよう。
食べた後は「美味いのはわかったけどもう十分だ」と思っていたが、不思議なことに一週間ほどたった今、また二郎のラーメンを食べたくなっている。

 

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↑小ラーメン・麺少なめ・ニンニク

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