がけぷっち世界

ここはくまのおかしな世界です。

浅草ロックで苦手な客に遭遇しあがっと言って花を買いに出たらマタイ受難曲で渋谷はどっちだ

7月14日明け方に見た夢。

 

道玄坂らしき坂道を歩いている。道頓堀劇場に行きたい。通いなれた劇場なのになぜか道に迷っている。曇りなのか夕方なのか街は薄暗い。空気があじさい色だと思う。黄色と赤のネオン看板だからすぐにわかるはずだ。たしかこのあたりにあるはずだと思う路地をのぞき込むが道劇が見つからない。坂を登り切って小高い丘の上に出てしまい、通り過ぎたようだと気が付く。
道行く人に「渋谷はどっちですか」と訪ねようと思うが、みんな真顔で足早に歩いていて声をかけずらい。
耳から一筋血を流している坊主頭の男が向こうから、競歩のような歩き方でスタスタと歩いてきて、私の前を横切った。目が血走っていた。「気の毒に頭蓋骨が割れちゃっているんだな」と思う。都会には時々ああいう状態になってしまった人が紛れているものだ。
ここだって渋谷なので「渋谷はどっちですか」という質問は大雑把すぎるかと思う。

 

<ここで一度起きてメモし、二度寝する>

 

市民会館のようなホールにいる。階段状の場内はえんじ色の椅子が並び床は赤いじゅうたん敷きだ。盆はないが、ここはストリップ劇場であり、今は開演前なのだ。
客はまばらで席は選び放題だが、私は前から6列目のやや下手側に座った。本当はスケベ心でかぶりつきに座りたいがここまで大きな劇場だとかぶりつきには座りずらい。座ってみるとステージが遠すぎるように思えて、せめて4列目か5列目にしておけば良かったと後悔する。前の方に里芋のような薄毛のおじさんが見え、あそこが良かったと思う。しかし、自由席だが一度座ると席を変えることができないシステムなのだ。

場内の横の壁に窪んだところがあり、そこに○○ちゃん(踊り子さん)が立っている。普段着なのだが頭には花飾りを挿して、さびしそうな表情をしてぽつんと立っている。私を見ると「あっ」というような声を出して小さく手を振ってくれた。そしてすぐにうつむいてしまった。いかにも今気が付いたように「あっ」と言ったが、○○ちゃんは私が気付く前から私に気付いていたのだろうと感じる。
後方扉から、私の苦手な客が入ってきた。近くに来ないでくれと願うが、彼は私を見つけると「あ」と声を発し近づいてきた。私が彼を苦手とする要因として、マナーの悪さよりも嫉妬心の方が大きいことを自覚している。
彼は私の二列後ろに座り、「シャアブッ」という音を立てて入れ歯を外した。おや、彼は入れ歯だったのかと思うが、入れ歯を外したように見えたのは幻かもしれないと思う。唇で歯を隠して口を開けているようでもあり、その口の中が恐ろしく真っ黒だ。二列後ろに座ったので話しかけられることはないという予想に反して話し掛けてきた。彼は「ほんとはコレ言っちゃダメなんだけど、言っちゃおうかな」と前置きをしてから踊り子さんから特別な扱いを受けているが故のあれこれを得意げに喋りだした。善意に解釈すれば、自慢ではなくウラ話を教えてくれているのかもしれないが、苦痛である。早くここから立ち去らなくてはと思う。今すぐ花を買いに行かなければならないことに気付いた。「幸いなことに、花を買う必要があるのです」という一節が新約聖書にあったような気がする。私が席を立ち歩きだしても彼は前を向いてしゃべり続けている。ということは私に喋っていたのではなく大きめの独り言なのかもしれない。
外出しようと場内横のドアを開けると、白々とした蛍光灯に照らされた傾斜のある通路に、踊り子さんと白タイツの男性ダンサー20人くらいが無言で並んで待機していた。舞台袖だと理解してそっとドアを閉めた。ここは浅草ロック座だから男性ダンサーがいるのだと納得した。
そのドアを閉めて後ろの扉から出てテケツに行く。従業員さんに「外出します」と言うと従業員さんから何か言われた。何を言われたのか分からなかったが注意事項だろう。私は「はい」と答えたつもりが「あがっ」と唐突に大きな声を発してしまって、その声に自分でも驚いた。今自分には声を調整をする能力が欠如しているのだ。「フィードバック機能の欠如」という言葉が浮かんだ。


劇場を出る。振り向くと劇場は灰色の巨大なコンサートホールで、大通りに面していた。夕方なのか、あたりはどんよりと薄暗い。とにかく花屋を探さなくてはならない。がむしゃらに歩くが、ちっとも花屋の無い街だ。

第一部の終わりには帰らなければならないが、一公演何分だったか思い出せない。CDだと2枚には収まらず、3枚か4枚になるのだ。5枚だったかもしれないがきちんと思い出せないことに落ち込む。とにかく今日、私はマタイ受難曲を聴きに来た。「血を流すのだ、我が心よ」の部分が頭の中に流れている。
席に置いた荷物はすでに撤去されているのだろうと思う。良席を占領したままどこかへ行ってしまうような人だと思われてしまうことに胸が苦しく泣きそうになる。

来た道を思い出せなくなっていた。劇場に戻れるかどうか自信が無くなってきた。だが、まずは花屋を探すべきだ。○○ちゃんの雰囲気に合った花があると良いのだが。仏花のような花ばかりの花屋だったら嫌だ。花を買ってから通行人に「渋谷はどこですか」と聞こうと考える。頭に「あの」を付けた方が自然だろう。練習のために「あの、渋谷はどこですか」とつぶやいてみようとするがハッハッと息が漏れるだけで声が出ず、息苦しくなる。