がけぷっち世界

ここはくまのおかしな世界です。

初めての犬の散歩

去年の夏伊豆の港町で一人暮らしをしているおばあちゃんを訪ねた。
庭に中型の黒っぽい犬がいた。御馳走を作るから、その間犬を散歩させてやってくれと言う。犬を飼ったことがないから散歩のさせ方も分からないと言うと、散歩のコースは犬が知っているからただ綱を持って後ろを歩いていればいいと言う。
庭に出て、藤棚の柱につないだロープを外していると、初対面なのにへっはへっはと荒い息を吹きかけてきた。ロープの端を持って道に出ると、犬が海の方へぐいっと引っ張ったので、そっちへついていった。犬は、引っ張ったり、こっちを見上げたり、身体をくるくる回してずっとへっはへっはしてて忙しい。花が咲いていたらこっちを見上げる様子が「見て見てこれお花!」と言っているようだと思ったらおしっこをぴっとかけた。防波堤の上など歩いて、へっはへっはいう犬と海風を浴びて歩くのもいいものだ。
防波堤を降りると、仕舞ってからもう何年もたつような古い店先にベンチがあって、犬がベンチの前に座ったので、おばあちゃんはいつもここで休むのだなと思い、自販機で缶コーヒー(冷)を買って腰かけた。コーヒーを飲んでぼーっとしていると、犬が寄ってきて私の手の甲に頭をこすりつけてきた。ぐいぐいこすりつけて、だんだん強くなった。あまりに強くこすりつけるので、頭の皮が引きつれて本来黒目しか見えない目の白目がむき出しになって充血しているのが見えて、悪魔のような顔に見えて、なんだか気味悪くなって手を引っ込めた。
微妙な雰囲気を察したのか、犬はもう帰ろうとばかりに歩きだした。帰り道はほぼ同じ道だったが、犬はもう寄り道せず、堤防の下の道をとことこ歩いた。
おばあちゃんの家に帰り元の藤棚の柱に繋ぐと犬はすぐに昼寝した。
居間には五目寿司やあんころ餅など、食べきれないほどの料理が並んでいた。
その夜後熱海のストリップに行きました。